~有明海干潟底質の過去から現在の変遷を探る研究がスタート~


当機構の調査研究事業の一つである「干潟・浅海域における底質物質循環に関する調査研究」の第1ステップとして、9月末に、佐賀県鹿島市及び川副町の沖合2km付近の2ヶ所で底泥のサンプル採取を行いました。

今回のサンプル採取は、有明海の環境変化に関する基礎データの収集を目的とするもので、採取作業は、底質の改良・攪乱が少ない場所として選定された地点で実施し、底質地層をスライス断面として採取するジオスライサー方式を用いて、約4~2m深度でアサリ・サルボウ等の貝化石、底生有孔虫、珪藻、渦鞭毛藻などの化石を含んだ底質サンプルを採取しました。
この調査研究事業は、有明海の干潟・浅海域の深い地層の泥を分析し、有明海が健全だったと考えられる、過去から現在までの干潟環境の変遷を把握することにより、有明海の望ましい姿を再現し、最終的には、底質環境データべースの構築、干潟・浅海域における底質の物質循環モデルを実態に即して作成し、有明海の底質再生への見通しを明らかにしようとするものです。 
今回採取されたサンプルは、現在、堆積相・生痕相の解析、貝化石、底生有孔虫、珪藻、渦鞭毛藻等の化石分析、炭素・窒素の安定同位体分析、鉄、マンガンなどの重金属類やTBT(トリブチルスズ)・PCB(ポリ塩化ビフェニール)などの環境ホルモン物質の分析などの作業を行っているところです。その成果については、広く公表していく予定です。

今回の調査結果を基に、来年度以降は、調査地点を新たに増やして、本格的な広域面的調査や鉛直分布調査を実施し、精度の高いものとしていく計画で、広大な有明海干潟を掘り起こし、まさに有明海の過去から現在までの環境の変遷を掘り起こそうとする作業が始まったところです。

  ジオスライザー作業状況(打ち込み状況)


サンプル取り分け状況
ジオスライサーによる底質試料の採取について

1.調査概要
(1) 調査目的
  干潟・浅海域における底質から生物を含めての物質循環の基礎データを得ること。
(2) 調査実施日
  平成17年9月29日?9月30日 (試料採取)
      10月1日?10月4日 (現地における試料処理作業)
(3) 主な調査・解析・分析項目
  ・ジオスライサー調査
・堆積相解析
・生痕相解析
・底生有孔虫化石分析
・珪藻化石分析
・渦鞭毛藻類
・貝化石分析
・安定同位体、粒度組成、AVS,マクロベントス
・重金属類全般
・年代測定(Pb,Cs)、COD
・TBT,PCB,T-P
(4) 調査位置図
 
  調査位置は、川副町の佐賀空港の南側沖合(砂泥質、潮間帯)と鹿島市南東側沖合(泥質、潮下帯)の2地点で行った。調査位置を図?1に示す。川副町側をNo.1,鹿島市側をNo.2とした。
 なお、現場作業において調査位置は簡易GPSにて計測している。
 
   
2.ジオスライサー調査とは
   ジオスライサーとは、矢板型のサンプルトレイとシャッタープレートを地中に別々に打ち込んで、その間に挟まれる地層を抜き取る装置及びその採取法である。この手法による地質調査法の特徴として、従来の調査と比較して以下の点が挙げられる。

・ボーリングコアと比較して幅広く且つ多量の地層を採取可能である。(約5倍以上の幅、採取量)
・地層断面を連続的に定方位で採取できる。
・含水比の高い試料でも堆積物をあまり乱さずに採取できる。
・作業効率が高い。

 以上のような特徴から、潮位差の大きい有明海において多量の試料を必要とする本調査に適している。

 今回、フロート台船に小型のクレーン(カニクレーン)を搭載し、専用のステンレス製ジオスライサー(L=6.00m)を用いて地層採取を行った。

 
 
①サンプルトレイの挿入   ②シャッタープレートの挿入   ③装置の引き抜き(地層抜き取り)

④装置の解体
 
⑤地層抜き取りの完成
  ※ジオスライサーによる地層抜き取り調査法は,考案者の広島大学・復建調査設計株式会社・核燃料サイクル開発機構の特許技術(登録番号2934641)です.
※ジオスライサー(Geoslicer)は広島大学の登録商標です。
   
3.調査状況
   今回のジオスライサー調査作業状況を以下に示す。なお、図?1に示した調査位置のうち、No.1では3本、No.2では2本のコアを採取した.ジオスライサー作業は、台船作業の安全上、潮位差があまり大きくならず(流れがはやくならない)、かつノリ漁に関係する作業に影響のでない9月29日と9月30日に行った。No.1における調査時の最大干潮時水深は約40cm(実測)、No.2における調査時の最大干潮時水深は約250cmであった。
  ・台船の曳航状況
・試料観察状況